効率化しているのに、なぜ現場に余裕が生まれないのか

仕事を効率よく進められるようになれば、職場に余裕が生まれる。そう考えるのは自然なことです。
無駄な作業を減らし、手順を見直し、一人しかできなかった仕事をほかの人も担えるようにする取り組みは、限られた人員で仕事を回すうえで、どれも欠かせません。
ところが、効率化を進めているはずなのに、現場が一向に楽にならないことがあります。
ここでいう余裕とは、単に手が空くことではなく、急な欠勤や予定外の対応が入っても仕事を回せるだけの時間的な余力と、仕事を分担できる体制のことです。
仕事が速い人ほど、仕事が集まっていく
仕事を効率よく進められる人がいると、周囲から「あの人は仕事が早い」「まだ余裕がありそうだ」と見られ、別の仕事も任されるようになります。
得意な人に任せたほうが職場全体が円滑に回る場面は確かにあり、短期的に見れば合理的な判断です。
ただ、その判断が繰り返されると、効率化で生まれた時間は次の仕事で埋まっていき、処理する速度は上がっても、本人が抱える仕事の量も一緒に増えていきます。その結果、急な欠勤や予定外の対応に充てられる時間は以前と変わらないままか、場合によっては以前より少なくなります。
さらに見落とされやすいのは、仕事が集まった人ほど、その人が休んだときの影響が大きくなるということです。

効率化が進んだ結果、特定の人に頼る度合いが強まり、職場はかえって脆くなることがあります。
問題は仕事を多く任せること自体ではなく、効率化によって生まれた時間をどう使うかを決めないまま、目の前の仕事を次々に割り当ててしまうことにあります。
浮いた時間を、誰が何に使うのか
効率化で生まれた時間には、いくつもの使い道があります。
これまで手が回らなかった仕事や、お客様への対応の質を高めることに使うこともできるでしょう。
後輩の育成に充てれば、将来、より多くの人が仕事を担えるようになるかもしれません。そして、急な欠勤や予定外の仕事に備えて、あえて予備として残しておくことも一つの選択です。
もちろん、事業を続けるには処理しなければならない仕事があり、浮いた時間をすべて予備に回せるとは限りません。だからこそ、何を優先し、どこに時間を使うのかを、仕事を割り当てる側が意識して決める必要があります。
その判断がなければ、空いた時間は目の前の仕事に自然と吸い込まれ、職場全体の処理能力は上がっても、変化に対応する力は残りません。

効率化の成果をこなせる仕事の量だけで見ていると、この違いは見えてきません。
多能工化で、職場の対応力は高まるのか
一人が複数の仕事を担えるようにする多能工化は、人手不足への有効な対策です。
特定の人にしかできない仕事が減れば、誰かが休んでも業務を分担しやすくなり、担当者の不在で仕事が止まるリスクも抑えられます。
ただし、できる仕事が増えたことと、引き受けられる仕事が増えたことは同じではありません。多能工になれる人が一部に限られていると、その人たちに仕事が集まり、かえって負担が偏ってしまいます。
大切なのは、一人が何種類の仕事をこなせるかよりも、複数の人が同じ仕事を担える状態がどこまで広がっているか、そして誰かが休んだときに実際に負担を分け合えるか、という点です。

つまり多能工化は、仕事を分担できる範囲を広げ、欠員が生じたときにも仕事を回しやすくする仕組みです。
もっとも、それだけで仕事の総量が減るわけではありません。仕事の総量が職場全体の処理能力を超えていれば、分担しやすくなっても十分な余裕は生まれないからです。
効率化で生まれた時間の使い道を決めることと組み合わせてこそ、職場の対応力は確かなものになります。
効率化の成果を、仕事量だけで測らない
効率化は、仕事を早く終わらせるためだけのものではありません。限られた人員で必要な仕事を回しながら、急な変化にも対応でき、特定の人に負担が集中せず、必要な品質やサービスを保てる状態をつくるための手段でもあります。
処理できる仕事の量が増えたかどうかだけでは、職場が良くなったかどうかは分かりません。
仕事が増えること自体は、事業が伸びていれば悪いことではないからです。
確かめたいのは、仕事が増えたかどうかだけではなく、増えたあとも急な変化に対応できる余地が残っているかどうかです。
効率化によって仕事が速くなったいま、誰か一人が急に休んでも、無理に負担を増やすことなく、必要な仕事を回せる状態になっているでしょうか。
効率化の成果を、処理できる仕事の量だけでなく、職場が変化に対応できるかという視点から見直すこと。それが、効率化を職場の改善につなげる第一歩になるのではないでしょうか。
<「現場の見方」について>
「現場の見方」は、職場で一般的に起こり得るさまざまな出来事を題材に、そこにある職場の構造について考えるコラムです。
人の行動や職場で起こる問題を、個人の能力や性格だけで捉えるのではなく、その背景にある仕組みや前提から見ていきます。
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