「あの人がいるから回っている」は、褒め言葉ではない

育休に入った同僚の仕事を、誰かが黙って引き受けている。 部下の異変に、上司が長年の勘で気づいている。 定年を過ぎても、本人の意欲だけでベテランが現場に立ち続けている。
どれも、職場では「美談」として語られがちです。
「助け合いの文化がある」「あの上司は面倒見がいい」「あの人はまだまだ元気」
そう言えば聞こえはいいのですが、これらにはすべて同じ構造があります。
本来、会社が仕組みとして設計すべきものを、個人の能力や善意に肩代わりさせているという構造です。
これを、属人化と呼びます。

会社は、いつも誰かに「丸投げ」している
以前このコラムで、判断基準を示さないまま現場に「臨機応変に」と丸投げする会社の話を書きました。挨拶についても、ルールではなく「心のあり方」まで求めてしまう会社の話を書きました。
今回の話も、根っこは同じです。会社が本来決めるべきことを決めずに、個人の判断力・気配り・気合いに預けてしまう。属人化というのは、その預け先が「特定の誰か」になっている状態を指します。
- 育休・産休・介護休業の穴埋め = 周囲の“我慢”に、業務が預けられている
- 部下の異変への気づき = 上司の“勘”に、マネジメントが預けられている
- 定年後も続く戦力化 = 本人の“気力”に、雇用継続が預けられている

会社は「うちはチームワークがいい」「あの上司はできる人だ」と誇らしげに語りますが、それは裏を返せば、その人がいなくなった瞬間に何も残らないという危うさの告白でもあります。
属人化は、仕組みに戻せる

属人化は、個人を責めても解決しません。会社が「個人に預けているもの」を、一つずつ仕組みに戻していくしかありません。
育休で抜けた業務は、周囲の“我慢”ではなく、あらかじめ用意された代替の手当と体制で埋める。部下の変化への気づきは、上司の勘ではなく、定期的な1on1という「仕組み」で拾う。定年後の戦力化は、本人の気力任せではなく、あらかじめ設計された役割の中で続けてもらう。
どれも、「個人の頑張りを前提にしない会社」への切り替えです。
属人化から抜け出した会社が、次に強くなる
属人化を仕組みに戻した会社は、目に見えて強くなります。誰か一人が抜けても回る。誰か一人の勘に頼らなくても、変化に気づける。誰か一人の気力に頼らなくても、経験を活かし続けられる。
会社が変わるときは、人が頑張ったときではありません。「頑張らなくても回る仕組み」ができたときです。
国もまた、「個人の頑張り」ではなく「仕組みづくり」を後押しする制度を用意しています。その話は、次回ご紹介します。

