良い人間関係は、目指すものではなく残るもの

飲み会を増やし、感謝を伝え合う制度を作り、1on1の回数を増やす。人間関係を良くしようと、良かれと思って手を打っているのに、なぜか職場が疲れていく。そんな感覚を持ったことはないでしょうか。

歯車と人間関係は、別のところにある

職場には、二つの違うものがあります。

一つは、歯車です。締め切りや情報共有、役割分担、判断の基準といった、仕事が実際に進むための現実の仕組みです。

もう一つは、人間関係です。誰かと話したり、気にかけたり、助け合ったりすることです。

この二つは、本来は別のものです。ところが、歯車がうまく噛み合っていないとき、人はその隙間を人間関係で埋めようとします。

情報が足りないから、誰かの機嫌をとって聞き出す。役割があいまいだから、断りにくい空気を読んで引き受ける。締め切りに間に合わないから、笑ってごまかして頭を下げる。
一つひとつは、小さなことです。でも、これは人間関係が「良くなっている」のではありません。歯車の欠陥を、人間関係で覆っているだけです。

覆っても、現実は必ず人を引き戻す

ここが一番大事なところです。

歯車の欠陥は、人間関係でどれだけ覆っても、消えてなくなるわけではありません。締め切りは来ますし、情報不足はいつか事故を生みます。役割があいまいなままだと、いずれ押し付け合いが起きます。

覆っても、現実は必ず戻ってきます。そして、その現実を受け止めるのは、覆うためにずっと気を張っていた人です。気を遣い、頭を下げ、機嫌をとることを続けたのに、結局、締め切りには間に合わない。情報不足で、ミスは起きる。押し付け合いは、いずれ表に出ます。

頑張って人間関係を良くしようとしたのに、現実の問題は何も解決していない。 この繰り返しこそが、疲弊の正体です。

「仲間かどうか」を作る雑談には、注意がいる

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。同じ「人間関係を作る行為」でも、区別すべきものがあるのです。
仕事の相談をする、協力して成果を出す、困っている人を手伝う。これは、仕事のためになる人間関係であり、何の問題もありません。

一方で、仕事の内容とは関係のない、愚痴の言い合いや他人の悪口、たわいのない雑談があります。これらは一見ただの息抜きに見えますが、機能としては、成果とは無関係に「仲間かどうか」の線引きを作る行為です。しかも、共有した不満や秘密が多いほど、その輪の結びつきは強くなります。

そしてこの結びつきは、実際の役割や評価とは別の場所に、非公式な仲間意識を作ります。

この仲間意識が強くなると、物事は「何が正しいか」ではなく「誰が味方か」で決まりやすくなっていきます。誰かが正しい指摘をしても、「あの人は仲間じゃないから」という理由で退けられる。これは、歯車ではなく、人間関係が物事を決めている状態です。

歯車が噛み合うと、人間関係は自然に生まれる

では、順番を逆にするとどうなるでしょうか。

締め切りに追われておらず、必要な情報があり、誰が何をやるかがはっきりしていて、判断に迷ったときの基準もある。こうして歯車が噛み合っていると、気を遣う理由そのものが減っていきます。機嫌をとらなくても情報は手に入り、断りにくい空気を読まなくても役割は決まっています。

そして面白いことに、ここで初めて、自然な会話が生まれます。

「さっきの資料、助かりました」「あの件、うまくいきましたね」「今度、ランチでも行きましょうか」
これは、必要に迫られて作った関係ではありません。義務ではなく、余白から生まれた関係です。

生き延びるために必要だった人間関係と、自由に選んで築く人間関係は、似ているようでまったく違います。前者は、無理をしている分だけ摩耗していきます。後者は、無理をしていない分だけ、長続きします。

人間関係は、仕組みの代わりにはなれない

以前の記事で、次のことを書きました。

人間関係は、その仕組みを支えることができます。でも、人間関係そのものを、仕組みの代わりにすることはできません。

今回の話は、これを時間の流れの中で見たものです。歯車が壊れたまま人間関係を先に良くしようとすると、その関係は壊れた歯車の上に築かれることになります。そして、いずれ歯車の欠陥は表に出て、その関係ごと消耗していきます。逆に、歯車を先に整えると、その上に築かれる人間関係は現実の裏付けを持ちます。だから、崩れにくいのです。

まとめ――良い人間関係は、目指すものではなく、残るもの

人間関係を良くしようとすること自体は、悪いことではありません。しかし、歯車が壊れたままの職場で人間関係を良くしようとすると、それは現実の問題を覆い隠すための、終わりのない作業になってしまいます。

職場で人と自然に仲良くなれるかどうかは、実は、気の合う・合わないの話である以前に、締め切りに追われていないか、必要な情報があるか、役割がはっきりしているかという、歯車の話です。

だから、もっと仲良くなりたいと思ったら、まずやることは、飲み会を増やすことではありません。目の前の歯車を、一つずつ噛み合わせていくことです。

良い人間関係は、目指して作るものではありません。歯車が噛み合った職場に、結果として残るものです。

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