構造不適合が生む「静かなコスト」
─採用広報は、人を集めるためだけではありません

採用活動では、「どうすれば応募が増えるか」が話題になりがちです。しかし、本当に考えたいのは、応募者を増やすことだけでしょうか。
私は、採用広報にはもう一つ大切な役割があると考えています。
それは、会社の構造を伝え、構造不適合を減らすことです。
合わない会社でもすぐには辞めない人もいる
「思っていた会社と違った。」
そう感じても、翌日に退職する人は多くはないでしょう。

働き方への期待と、職場の構造が噛み合っていなかったとしても、「転職活動をする余裕がない」「次の会社も同じかもしれない」「生活のためには働き続けるしかない」など、さまざまな理由から、不満や違和感を抱えたまま、しばらく働き続ける人もいます。
問題は、早期離職だけではない
採用では、「早期離職」が問題として語られることが少なくありません。もちろん、採用や教育にかけた時間や費用を考えれば、大きな損失です。しかし、私はそれ以上に見落とされている問題があると感じています。
それは、働き方への期待と、職場の構造が噛み合わないまま働き続けることです。
私は、これを「構造不適合」と呼んでいます。
例えば、自分で考えながら仕事を進めたい人が、細かな指示を前提とする職場で働き続ける。
反対に、一つひとつ確認しながら仕事を進めたい人が、自律的な判断を求められる職場で働き続ける。
能力や意欲の問題ではありません。
働き方への期待と、職場の構造が噛み合っていないだけなのです。
構造不適合は、「静かなコスト」として積み重なる

合わないからといってすぐには辞めない。だからこそ、問題は見えにくくなります。
しかし、その間にも会社では、少しずつコストが積み重なっていきます。
- 本来発揮できる力を十分に発揮できない。
- 「育たない人」という評価になってしまう。
- 配置転換や追加教育を繰り返す。
- 周囲のフォローが増え、生産性が下がる。
これらは、一見しただけでは「構造の問題」だとは気づかれません。
だからこそ「静かな」コストなのです。
もちろん、これらの問題にはさまざまな要因が絡みます。しかし、この状態が長く続いた末に、その背景の一つとして、ハラスメント相談や休職、離職という、誰の目にも分かる形の問題につながっているケースもあります。
一つひとつは別々の問題に見えるかもしれません。
しかし、その背景には、会社が求める働き方と本人の期待が噛み合っていない「構造不適合」が隠れていることがあります。
採用広報で「会社の構造」を伝える

採用広報というと、会社の魅力を発信する活動というイメージがあるかもしれません。
もちろん、それも大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。
もっと伝えるべきなのは、その会社でどのような働き方が求められるのかという「構造」です。
例えば、
- どこまで自分で判断することを期待しているのか
- どのような仕事の進め方が評価されるのか
- チームで支え合うことを重視するのか、それとも個人の裁量を重視するのか
こうした情報が伝わっていれば、「この会社なら力を発揮できそうだ」と感じる人もいれば、「自分には合わないかもしれない」と判断する人もいるでしょう。
後者にとっては、応募を見送るという選択につながるかもしれません。しかし、それは応募者を減らすことそのものが目的ではありません。
入社後に構造不適合で苦しむ人を減らし、結果として「静かなコスト」を防ぐためのプロセスです。
会社と働く人がお互いを理解したうえで選び合えることが、何より大切なのです。
「人が悪い」の前に、「構造は伝わっていたか」
採用後に思うような成果が出ないと、「能力が足りない」「主体性がない」と個人に原因を求めてしまうことがあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
会社が求める働き方や判断の基準が、入社前の段階で十分に伝わっていなかっただけかもしれません。
構造不適合を減らすことは、採用を成功させるだけではありません。
会社の中で少しずつ積み重なる「静かなコスト」を減らすことにもつながります。
採用広報は、人を集めるためだけのものではなく、会社と働く人が、お互いを理解したうえで選び合うためのものでもある。私はそう考えています。

