人を補充するモデルは、本当に終わったのか

人手不足の話になると、「これからは定着だ」「育成だ」「人を大切にしなければならない」という話をよく聞きます。
確かにその通りかもしれません。
しかし、その前に一つ確認したいことがあります。
人を補充するモデルは、本当に間違っていたのでしょうか。

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こうした職場は長い間、必要な時に必要な人数を確保することで成立してきました。

繁忙期に採る。必要がなくなれば減る。その代わり教育投資は最小限。定着よりも調達。
これは決して異常な運用ではありません。
求人市場に人が流動していた時代には、合理的な経営判断でした。

実際、入れ替わりを前提にしても、辞めた分だけすぐに次が採れるなら、1人あたりの未回収コストは大きな問題になりません。穴はすぐ埋まり、現場は回り続けるからです。問題が表面化するのは、その「すぐ埋まる」が崩れたときです。

ここで、以前投稿した記事を思い出してください。私は「人が辞める前提で回すとコストが逆転する」と書きました。
しかし実は、人が辞めること自体を問題にしていたわけではありません。
問題は、投資を回収できない状態が続くことでした。

育成や採用にかけた費用は、本来その人が戦力化したあとの働きで回収される前提のものです。早く辞めてしまえば、その回収が起きないまま費用だけが残ります。これが積み重なった状態を、前回は「コストの逆転」と呼びました。
人を補充するモデルにも成立条件があります。それは、必要な時に必要な人材を求人市場から調達できること。この条件が満たされるなら、育成投資を最小限に抑えることにも合理性があります。
辞めても、代わりがすぐ見つかる。だから育てるより、調達したほうが効率的。この前提が成り立っている限り、補充モデルは合理的な経営判断であり続けます。

ここが、前回の記事の話とつながってきます。
前回書いた「コストの逆転」は、育てる前提で投資をしたのに、回収できなかったという、期待と結果のギャップから生まれていました。
補充モデルは、そもそも大きな育成投資を前提にしていません。教育期間を短くし、早期戦力化できるよう設計することで、離職による未回収リスクを小さくしています。

採用コストも、性質が変わります。前回のように何度も採用を繰り返すたびに積み上がっていく想定外の損失ではなく、辞める前提で最初から織り込まれた、毎月の家賃のような固定費になります。
つまり、コストが逆転するかどうかを分けているのは、人が辞めるかどうかではありません。回収を前提にした投資をしているかどうかです。補充がすぐに効く間は、このギャップが生まれないため、コストは逆転しません。

では今起きていることは何でしょうか。人が辞めるようになったのでしょうか。
違います。人は昔から辞めていました。
変わったのは、辞めた後です。

以前は求人市場にいた人が、今は市場にいない。求人を出しても応募が来ない。来ても、条件が合わない。採用までの期間が、以前より明らかに長くなっている。
そうした状態が、ここでいう「市場にいない」の中身です。
必要な時に採ればよかった構造が、必要な時に採れない構造になった。
つまり、補充モデルそのものが壊れたのではなく、補充モデルが前提としていた「市場には常に人がいる」という条件のほうが崩れた、ということです。

もしそうだとしたら、失われた能力は何でしょうか。育成能力でしょうか。定着能力でしょうか。
あるいは、市場に依存できる範囲を見極める能力だったのでしょうか。

「採れば済む」という前提がどこまで通用し、どこから通用しなくなるのか。その境界線を見誤らないこと。今、経営に問われているのは、おそらくそこです。
ただし、この境界線の引き方は、業態によって同じではありません。前回取り上げた30人未満の企業と、コンビニや物流のような大量採用業態とでは、抱えている課題の性質が違います。その違いをどう扱うべきかは、稿を改めて考えたいと思います。

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