やる気を高める前に、職場から減らすべきものがある

「社員にもっとやる気を出してほしい」
「もっと主体的に、前向きに働いてほしい」
そう考える経営者は少なくありません。
しかし、その前に一度立ち止まって考えてみたいことがあります。
その職場は、社員が力を発揮する以前に、余計な消耗を生んでいないでしょうか。
人的資本経営の前に、整えるべき土台
近年、「人的資本経営」という言葉が注目されています。
人を単なる労働力として見るのではなく、企業価値を生み出す資本として捉え、その能力や可能性を引き出していこうという考え方です。しかし、人を資本として考えるなら、能力を伸ばすことだけではなく、その能力が発揮される環境を整えることも重要です。
どれだけ「成長してほしい」「主体的に働いてほしい」と伝えても、職場に不満や不安、不信感が積み重なっていれば、その言葉は十分に届かないことがあります。
まず必要なのは、人が安心して働き続けられる土台づくりではないでしょうか。
やる気を高める前に、不満を減らす
職場と人の関係を考えるとき、よく取り上げられるのが心理学におけるモチベーション理論です。
例えば、マズローの欲求5段階説では、人には低次の欲求から高次の欲求まで段階があり、基礎的な欲求が満たされることで、より高い次元の欲求を目指すと考えられました。

また、ハーズバーグの二要因理論では、不満を防ぐ「衛生要因」と、仕事への満足に関わる「動機付け要因」が区別されています。

本来、これらは別々の理論ですが、この記事では2つの考え方を重ね合わせ、「職場づくりの土台」を考える視点として整理してみました。
ここで注意したいのは、不満を防ぐ「衛生要因」は、決して「最低限あればいいもの」ではないということです。ここが欠けた状態のまま、いくら「成長」や「挑戦」を促しても、土台が不安定な会社からの言葉は社員に十分に届きません。やる気を高める施策を活かすためにも、まずは不満を招く要素を解消し、環境を整える必要があります。

信頼されていない会社の「やる気施策」は響かない
例えば、会社が「もっと挑戦してほしい」「成長してほしい」と社員に求めている一方で、
- 労務管理がずさん
- 評価基準が分からない
- 一部の人に負担が集中している
- 経営判断の理由が共有されない
といった状態が続いていたら、社員はどう感じるでしょうか。
もちろん、会社側に悪意があるとは限りません。日々の業務に追われ、職場の土台づくりまで手が回っていない場合もあります。
しかし、社員から見れば、
「この会社は自分たちを大切に考えているのか」
「この会社を信頼してよいのか」
という感覚につながります。
人は、会社側から発信される言葉だけではなく、その言葉と実際の扱われ方が一致しているかを見ています。
小規模事業所ほど、まず職場のノイズを見る
特に従業員数が少ない事業所では、一人ひとりの存在が職場全体に与える影響が大きくなります。
一人の経験や判断が業務を支えていることもあれば、一人の不満や不安、負担の偏りが、職場全体の雰囲気や働き方に影響することもあります。
こうした、不満や不安を生み、社員が本来の仕事に力を使うことを妨げる要素は、いわば職場の「ノイズ」です。
だからこそ、まず確認すべきなのは「どうすれば社員のやる気を高められるか」だけではありません。その前に、
「何が社員を消耗させているのか」
「何が不満や不安の原因になっているのか」
を見ることが重要になる場合があります。例えば、
- 労務に関する手続きが漏れている
- 労働時間・勤怠の不適切な管理
- 特定の人しか分からない仕事が多い
- 頑張っている人ほど負担が増える
- ルールが曖昧で、その場の判断に頼っている
- 評価される仕事と、実際に支えている仕事がずれている

管理できるのは、人の感情ではなく感情に影響する環境
人の感情そのものを管理することはできません。
「もっと前向きになってほしい」
「もっと会社を好きになってほしい」
そう願うことはできます。しかし、相手の内面を直接変えることはできません。
一方で、感情に影響を与える環境は整えることができます。
不公平感を減らす。負担の偏りを減らす。不透明さを減らす。「この会社なら安心して働ける」と感じられる土台をつくる。
こうした積み重ねによって、人が本来持っている力を発揮しやすい環境になります。
職場の「当たり前」を見直す

会社が成長するためには、社員の意欲や挑戦は欠かせません。しかし、その前に確認すべきことがあります。
その職場は、社員が安心して力を発揮できる状態になっているでしょうか。
不満、不安、不信。こうした職場のノイズを減らすことは、単に離職を防ぐためだけではありません。人が本来持っている力を発揮できる環境をつくることでもあります。
「もっと頑張ってもらう」前に、「頑張りを妨げているものはないか」を見る。それが、小規模事業所における人的資本経営の第一歩になるのではないでしょうか。
こうした環境づくりは、単なる「優しさ」ではありません。
従業員が力を発揮した結果として、組織にも成果が還元される投資(あるいは仕組み)です。人もリターンも自然についてくる会社とは、こうした土台の上につくられるものだと考えます。

