人間関係は、仕組みの代わりにはなれない

━ 中小企業の属人化を考える
「人ではなく、仕組みを見てください」
「人間関係は、仕組みの代わりにはなりません」
職場の問題を考えるとき、こうした見方が役立つことがあります。
それでも、なかなか仕組みの方に目が向かない職場があります。
なぜでしょうか。
その理由を、「人間関係を良くしようとする以外に、能力がないからだ」と説明したくなることがあります。でも、これでは人を悪く言う話になってしまいます。
誰も攻撃せずに、それでもきちんと納得できる形で説明するには、能力や人柄の話から離れる必要があります。
そこで、「仕組み」と「人間関係」という言葉の意味を、一度きちんと整理してみます。
仕組みと人間関係は、そもそも別のもの

仕組みとは何でしょうか。
それは、誰が担当しても、一定の水準で機能するように作られたものです。
「最終判断は社長がする」という会社があってもかまいません。大事なのは、社長が代わっても、同じように最終判断という役割が果たされる形になっているかどうかです。
一方、人間関係とは何でしょうか。
それは、特定の人と特定の人の間にしか存在しないものです。
AさんとBさんの信頼関係は、CさんとDさんにそのまま渡すことはできません。ここに、仕組みと人間関係の大きな違いがあります。
会社は「人が入れ替わる」ことが前提の場所
ここが、今回の話の一番の土台です。
会社では、人が入ってきたり、辞めたり、異動したり、昇進したり、休んだりします。育児や介護で一時的に離れることもあれば、経営者が代わることもあります。
人が入れ替わることは、会社にとって珍しいことではなく、当たり前に起こることです。
だとすれば、会社が続けていくうえで欠かせない仕事を、「特定の人がいること」や「特定の人間関係があること」に頼ってはいけません。
ここから、一つのことが言えます。
特定の人にしかできない人間関係を、会社が続けていくうえで欠かせない仕事の土台にしてはいけない。
これは、人間関係が悪いという話ではありません。人間関係を大切にするなという話でもありません。「会社は人が入れ替わる場所だ」という前提から、自然に出てくる話です。
「代わりになる」の意味をはっきりさせる
ここで、誤解しないでほしいことがあります。
問題なのは、人間関係を使うこと自体ではありません。新人が先輩に相談する。これは何も問題ありません。
問題になるのは、「誰に聞けばいいか」「何を基準に判断すればいいか」「どう教えればいいか」――本来は会社の仕組みとして用意しておくべきことが、特定の人間関係の中にしかない状態です。
「Aさんに相談する」のはいいのです。
「Aさんとの関係がないと、そもそも仕事が進まない」だと、話が変わってきます。

人間関係が、仕組みを助けているのか。それとも、人間関係がないと仕組みが動かないのか。
この二つは、似ているようでまったく違います。
「でも実際、うまく回っている」への答え
こう反論されることがあります。「理屈はそうかもしれないけど、うちは実際にそれで回っている」と。
ここには、一つ見落としがあります。
「今うまく回っている」ことと、「これからもずっと回り続けられる」ことは別だ、ということです。
人が入れ替わっていない間は、たとえ機能が特定の人間関係の中にしかなくても、それは表には出てきません。でもそれは、その仕組みが本当にしっかりしている証拠ではなく、ただ「まだ誰も辞めていない」というだけの話です。
人間関係に頼った職場が危ないのは、普段うまく回らないからではありません。むしろ、普段はとてもよく回ってしまいます。だからこそ、問題に気づきにくいのです。
人が抜けたとき、ツケが一気にまわってくる

人間関係の中で回っていた仕事は、普段はタダに見えます。
でも、その関係を作っていた人が辞めたとき、話は変わります。
新しく人を採用し直す。教育し直す。判断の基準を作り直す。お客さんとのやり取りを引き継ぐ。ミスが起きたら直す。上司がその穴を埋める。その間、仕事のスピードは落ちます。
普段はタダに見えていたものが、人が抜けたとたん、まとめて高い請求書として届きます。
これは気持ちの問題ではありません。採用にかかるお金、教育にかかる時間、上司が使う時間、仕事のスピードが落ちること、逃した機会。人間関係の中にあった仕事を、もう一度会社の中に作り直すためのコストの話です。
仕組みに変えようとすると反対が起きるのは、悪意からではない
仕事を仕組みに変えていくと、それまで人間関係の中で果たしていた役割――情報を伝える、判断する、教える――の立ち位置が変わる人が出てきます。
その結果、
- 情報を出し渋る
- 変更に消極的になる
- 「今までこれでやってきた」と言う
- 新しいやり方を使わない
といったことが起こることがあります。
これは、その人の性格が悪いからではありません。今の仕組みの中で自分の価値を作ってきた人にとって、それを変える提案は、自分の立ち位置が揺らぐことのように感じられるからです。
自分が大事にされている理由を守ろうとするのは、誰にでもある反応です。本人にとっては、十分に理屈の通った反応なのです。だからこそ、これを個人攻撃の材料にしてはいけません。会社の仕組みの問題として見るべきです。
会社の仕組みを見るというのは、「誰が悪いか」を探すことではありません。
- なぜ、その人がいないと仕事が回らないのか
- なぜ、その人が納得しないと物事を変えられないのか
- なぜ、その人に情報や判断が集中しているのか
これを見ることです。
まとめ――人間関係に、仕組みの仕事をさせない
人間関係をなくす必要はありません。
信頼すること。励ますこと。相手の変化に気づくこと。困っているときに手を差し伸べること。これらは人間関係にしかできないことで、職場にとって大切なものです。
でも、情報を残しておくこと、判断の基準を共有すること、役割をはっきりさせること、誰が担当しても同じくらいの水準で仕事ができるようにすること。こうした会社の仕組みまで、人間関係に背負わせてはいけません。
人が入れ替わることは、会社にとって異常なことではありません。それなのに、人が入れ替わるたびに仕事が回らなくなるとしたら、それは「人が変わった」せいではなく、その仕事が、そもそも会社の仕組みとして作られていなかったということです。
人間関係で回っている職場は、普段はとても安定して見えます。でも、その安定が「特定の人間関係があること」を条件にしているなら、それは仕組みによる安定ではありません。
人が変わっても、仕事は残る。誰が担当しても、同じように仕事ができる。そのために、仕組みがあります。
人間関係は、その仕組みを支えることができます。でも、人間関係そのものを、仕組みの代わりにすることはできません。

