助成金の審査と不正について
助成金を受給するには、申請前後を比較して改善されたかどうかを審査されるケースが多くあります。申請の際には帳簿類の原本のコピーを提出しますが、申請前から一定期間正しく記載しておかないと後から作り直すことができません。「前からあったことにする」「見せかけの記載」などは通りません。
助成金の審査は厳格で、申請内容が事実かどうかを含めて、様々な角度からあらゆる手段を使って厳しいチェックが行われます。このため、不正はほぼ確実に発覚します。
不正の内容に応じて、法人だけでなくその役員や申請を請け負った社労士など、かかわった人すべてに対して、違約金の支払い・社名(氏名)の公表・一定年数の申請禁止、場合によっては刑事告発されるなど、重いペナルティが科せられます。
▸ 参考:雇用調整助成金(不正受給関係)《厚生労働省》
法令に触れないことはもちろん、申請に必要な項目が抜けていないかなど、助成金に対応した内容になっているかを日頃から確認しておく必要があります。また、労務管理の仕方が間違っていると、それが帳簿にそのまま反映されます。無意識のうちに長時間労働や残業代未払いが発生していないか、改めてご確認ください。法令は「知らなかった」では通りません。
助成金申請に必要な帳簿(5種類)
助成金申請で必要となる帳簿類は以下の5種類です。1〜3は労働基準法で作成と保存が義務付けられていますが、「4.就業規則」は従業員が10人未満の事業場では作成していないことが多い傾向があります。しかし助成金の申請ではほぼ必要になりますので、ぜひ作成・届出してください。また、36協定を結ばずに法定時間を超えた残業や休日出勤をさせると法令違反となります。
▸ 参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)《厚生労働省》
従業員を雇う際には、労働条件を明示しなければなりません。「絶対的明示事項」のうち「昇給に関する事項」以外は原則として書面で交付しなければなりません(労働者が希望した場合は、メール・SNS・FAXでの明示も可能です)。
- ひな形を使用している場合は、法改正への対応に注意が必要です
- 助成金申請では、雇い入れ時だけでなく、労働条件が変わる都度交付している必要があります
- 就業規則との整合性もとっておきましょう
使用者には、従業員の労働時間を客観的に把握する義務があります。厚生労働省のガイドラインでは、原則として使用者の現認か、タイムカード・パソコンの使用時間の記録などで行うこととされています。一般的にはタイムカードや勤怠管理システムを用いた管理が現実的です。
▸ 参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン《厚生労働省》
- やむを得ず自己申告制にする場合は、厚生労働省のガイドラインに沿って適切に行う必要があります
- タイムカードやシステムの打刻忘れには、必ず追記(修正)と理由の記録が必要です
- 長時間労働が常態化しているなら、本気で改善を目指してください
- 勤怠管理システムは操作性・利便性だけで選ぶのはお勧めしません。法令対応が弱いものや、帳簿の形式が整っていないなど、助成金申請に不向きなものもあります
労働基準法に基づいて必要事項を記載する必要があります。給与計算にミスがあり、時間外手当が払われていないことが後から発覚するケースもあるため、改めて点検しておきたいところです。給与計算ソフトを使用していれば簡単に出力できるものが多く便利です。
- 必要な項目が記載されているだけでなく、中身に間違いがないかのチェックも必要です
- 賃金台帳は出勤簿と照合され、時間外手当の金額が適切でないと助成金は不支給になります
- 助成金申請では、賃金の支払い日も記載されていることが望ましいです
- 1枚につき1名で作成します
助成金の申請では、就業規則の提出を求められることがほとんどです。すでに備え付けている事業場でも、法改正に対応していなかったり、申請する助成金に必要な条文が追加されていないなどの不備が見つかることが多くあります。インターネットのひな形を自作した場合は特に、他の帳簿類との整合性や文言の適切さ、必要な規定の有無を確認してください。不備があれば、当然助成金は不支給になります。
就業規則は、労使トラブルにも対応できるようしっかり作り込まれたものが理想です。専門家である社労士に依頼すると数十万円単位の費用がかかりますが、今後のことも考え、これを機にしっかりしたものを作っておくのも良い選択ではないでしょうか。
- 雇用形態ごとに作成すると、対象となる従業員の範囲が明確になります
- 労働時間・休憩・休日は、現時点の実態に即した内容を記載してください
- 賃金の締切と支払日は必須項目です
- 基本給や手当が他の帳簿類と相違していないか注意が必要です
- 申請する助成金の種類により、必須となる条文が異なります。記載漏れに注意してください
労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間・1週40時間(特定の業種は44時間)以内と規定されています。この法定労働時間を超えて残業や休日出勤をさせるには、労働者の過半数を代表する者と使用者が協定を結び(36協定)、事前に労働基準監督署長に届け出る必要があります。特別条項付きで締結・届出した場合は、一定の制限付きでさらに限度時間を超えた時間外労働をさせることができます。
- 36協定は、締結しただけでは効力がありません。届け出て初めて罰則を受けない免罰効果が生まれます
- 労働者の過半数代表の選出は、投票や挙手など適切な方法で行いましょう。恣意的な選出は後々のトラブルにつながります
- 36協定の締結・届出が必須となる助成金もあります(例:働き方改革推進支援助成金 労働時間短縮・年休促進支援コース)
助成金申請と労務管理
助成金の財源の多くは、事業主が支払う雇用保険料です。したがって、助成金を申請・受給するには、雇用保険適用事業場であり、支給申請日と支給決定日に雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主である必要があります(例外あり)。適切に保険料を納め、従業員の資格取得と喪失の手続きを滞りなく行っていることも前提となります。
また、申請日の前日から過去1年の間に労働関係法令の違反があった場合は申請できません。必要な書類が交付されているか、協定が届出されているかなど、改めてご確認ください。
従業員の労働時間を適切に把握できていますか。客観的な記録がなければ、審査で不支給となるケースがあります。
給与計算ソフトの設定が間違っていると、出力される結果も誤ったものになります。初期設定から見直してみてください。
助成金の種類によっては、申請前後の一定期間、要件に従った労務管理が必要なものがあります。
頻繁な法改正に対応できていないと、知らないうちに法令違反を犯してしまう可能性があります。常にアンテナを張っておきましょう。
法令にそぐわない慣習的なルールは、審査では一切考慮されません。「うちでは昔からそうしている」では通らないのです。まず現状の労務管理体制を客観的に見直すことが、助成金活用の第一歩です。
まとめ
日頃から適切な労務管理を行い、それを反映した帳簿類を整えるのは、法に基づくもので当然のことです。ただ、法改正が頻繁に行われるため、絶えずキャッチアップし続けなければなりません。さらに、助成金の申請要件を満たすには、それ以上のことが求められます。
大変ですが、やりようはいくらでもあります。何より大切なのは、そこに目を向けようと思っていただけるかどうか。まず、そこからではないでしょうか。
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