(第2話)飲食店「食彩A」で起きた静かな波紋
目次
成果を求める上司vsやる気が出ない部下
名古屋市で営む、創作和食店「食彩A」
オーナーのA店長は40代、10年前に脱サラして始めたお店だ。
料理の味には定評があり、連日多くの客でにぎわっていたのだが…最近、厨房の空気が重い。
その中心にいるのが、ホールスタッフの一人、Tさん(28歳)。開店当初から勤めてきたが、最近は無断遅刻や私語が目立ち、接客もどこか投げやり。
ある日、見かねたA店長が彼女に声をかけた。
「最近どうしたの?以前のようにもっとテキパキ動いてくれないと困るよ」
しかし彼女の返事はそっけなかった。
「どうせパートですし、頑張っても変わらないので…」
この言葉が、A店長の胸に刺さった。

経営側と従業員側の思い
【経営側】
「うちのような小さな店では、みんなが全力で動いてくれなきゃ回らない。給料以上に働いてくれとは言わないが、最低限の責任感は持ってほしい」
「でも、どんなに注意しても態度が変わらない。“やる気が失せた人”に何を言っても無駄なのか…?」
【従業員側】
田中さんの本音は、表に出しにくい。
「最初の頃は、やりがいを感じてた。でもいつまでたっても待遇はパートのまま。責任だけ増えて、評価されている実感がない」
「“もっと頑張れ”って言われても、頑張る意味が見つからない。やる気が出るわけない」
なぜ互いにそう思うのか?対立構造の見える化
【経営側の視点】
- パフォーマンスが落ちると、店の回転率・評判に直結する
- 忙しい中で一人ひとりを細かくフォローできない
- 「やる気は本人の問題」と考えがち
- 結果が出ない社員に投資したくない
【従業員側の視点】
- 努力しても報われない実感(昇格・待遇の壁)
- 成長や評価のフィードバックがない
- 責任だけが増えてプレッシャーに
- 「自分は使い捨て要員では?」という疑念
解決策:正社員登用がモチベーションの“火種”を灯す
正社員化によって、「評価されている」と従業員が実感すれば、モチベーションを高めるきっかけになり得ます。その初期コストは助成金でカバーします。
人は「自分は認められている」と感じたときに、初めて主体的に動けるのではないでしょうか。立場の安定や待遇改善が、やる気の“エンジン”になるでしょう。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を使えば、非正規社員を正社員に登用する際のコストを国が助成してくれます。これは、「頑張る価値がある職場」に変わるためのきっかけ作りを後押ししてくれるものです。
火のついていないロウソクに、いくら「もっと明るくなれ」と言っても無理です。
でも、芯に“火”を灯せば、自然と周囲を照らすようになります。
その“火”こそが「正社員化」であり、“マッチ”が「助成金」というわけです。
キャリアアップ助成金「正社員化コース」とは
⑴ 何に対して助成されるのか
非正規雇用者を、正社員または無期雇用労働者に転換したことに対して助成されます。
⑵ 対象の労働者と事業者
- 労働者:6か月以上雇用されている有期・パート・派遣社員
- 事業者:中小企業・法人・個人事業主も対象(条件あり)
⑶いくら助成されるのか(2025年4月現在)
- 有期→正社員:80万円/人(中小企業・重点支援対象者)
- 無期→正社員:40万円/人(中小企業・重点支援対象者)
- 有期→正社員:40万円/人(中小企業・重点支援対象者以外)
- 無期→正社員:20万円/人(中小企業・重点支援対象者以外)
※各種加算あり
⑷対象の労働者と事業者
- 労働者:6か月以上雇用されている有期・パート・派遣社員
- 事業者:中小企業・法人・個人事業主も対象(条件あり)
⑸ タイムスケジュール
- 最低6カ月前から要件を満たす就業規則を適用
- 計画書の提出(事前に提出が必要)
- 正社員化の実施
- 実績報告
- 審査・支給(約3~6か月)
最後に
Tさんはその後、A店長との面談を経て正社員に登用されました。
「期待されている」と感じた瞬間、彼女の顔つきが変わったといいます。笑顔が戻り、接客も明るくなりました。
Tさんは、頑張れないのではなく「頑張る意味がない」と思っていました。それが今、意味を取り戻したのです。
たった一つの登用が、お店の空気を変えました。
あなたの職場でも、“その一歩”を踏み出してみませんか?
