(第1話)ある町工場で起きた“対立”のはじまり
目次
コスト削減vs雇用の安定
名古屋市郊外にある金属加工の町工場「Y製作所」。創業者のY社長のもと、10名ほどの従業員が家族のように働いてきた職場だ。
ところがここ最近、徐々に職場の空気がよどみつつあった。
3年前にパートとして入社したSさん(32)が、ある日ぽつりとつぶやいた。
「正社員として働けないのでしょうか?」
彼女のその一言をきっかけに、他の非正規社員たちの心にも火がついた。
「このままでは将来が不安だ」「いつ契約を切られるか分からない」と、不満が徐々に広がり始めたのだ。
こうした空気感に、Y社長は困惑していた。
「みんな仲間だと思ってきた。でも正社員にするのはコストがかかるし、会社だってギリギリなんだ…」
小さな工場で起きた“すれ違い”が、やがて大きな亀裂となっていった。
経営側と従業員側の思い
【経営側】
Y社長(56)の本音はこうです。
「社員を正社員にしたくないわけじゃない。むしろ長く働いてほしい。でも、正社員にすることで社会保険料の負担が増えるし、有給や退職金制度も整えねばならない。小さな会社には大きな痛手だ」
「だからといって、努力して働いてくれる人たちの希望を無視しているわけじゃない。でも“今は無理”なんだよ…」
【従業員側】
Sさんの気持ちも切実でした。
「毎日真面目に働いているのに、ボーナスも昇給もない。職場には愛着があるけど、将来を考えると、このままでいいのか不安になる」

なぜ互いにそう思うのか?対立構造の見える化
【経営側の視点】
- 人件費の増加が経営を圧迫するリスク
- 社会保険・福利厚生などの整備コスト
- 助成金や補助金の情報に疎く、制度を知らない
- 社員の気持ちに寄り添いたいが、現実的余裕がない
【従業員側の視点】
- 将来への不安(雇用・収入・保障)
- 意見を言い出しにくい雰囲気
- 評価制度や昇進のチャンスが曖昧
解決策:助成金制度の活用が“対立”を“前進”に変える鍵

「キャリアアップ助成金・正社員化コース」を活用し、会社の負担を減らしながら従業員を正社員化します
助成金を活用することで、経営側の不安(コスト面)を軽減し、従業員の希望(安定した雇用)に応えることができるからです。
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は、非正規雇用(パート・有期契約・派遣社員など)の人を正社員に登用した際、企業側に支給される助成金制度。
これにより、正社員登用にかかる社会保険料などの初期コストを補うことができます。
例えば、山登りに例えると――
「助成金」は、険しい登り道に差し伸べられる“ロープ”のような存在です。
登りたい気持ちはあるけども、体力(資金)がない企業にとって、その“ロープ”があるだけで一歩を踏み出せます。
キャリアアップ助成金「正社員化コース」とは
⑴ 何に対して助成されるのか
非正規雇用者を、正社員または無期雇用労働者に転換したことに対して助成されます。
⑵ 対象の労働者と事業者
- 労働者:6か月以上雇用されている有期・パート・派遣社員
- 事業者:中小企業・法人・個人事業主も対象(条件あり)
⑶いくら助成されるのか(2025年4月現在)
- 有期→正社員:80万円/人(中小企業・重点支援対象者)
- 無期→正社員:40万円/人(中小企業・重点支援対象者)
- 有期→正社員:40万円/人(中小企業・重点支援対象者以外)
- 無期→正社員:20万円/人(中小企業・重点支援対象者以外)
※各種加算あり
⑷対象の労働者と事業者
- 労働者:6か月以上雇用されている有期・パート・派遣社員
- 事業者:中小企業・法人・個人事業主も対象(条件あり)
⑸ タイムスケジュール
- 最低6カ月前から要件を満たす就業規則を適用
- 計画書の提出(事前に提出が必要)
- 正社員化の実施
- 実績報告
- 審査・支給(約3~6か月)
最後に
Y製作所は、社労士の助言のもとこの助成金を活用し、3名のパート従業員を正社員に登用しました。
社長は言います「助成金がなければ、一歩踏み出せなかった。従業員が“自分は認められている”と感じたようで、表情が明るくなったよ」
対立は、理解し合えば「成長の物語」に変わります。あなたの職場でも、その第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
